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非常用電源ードラえもん会議④ [電力論]

台風19号は、先日房総半島で甚大な被害をもたらした台風15号を上回る超大型の勢力だということで、テレビでも盛んに注意・警戒が呼びかけられていた。

多くの商業施設は早々臨時休業を決め、鉄道会社も早めの運休見通しを出した。前回15号台風の教訓からか、窓ガラス破損対策に養生テープを買い込んだり、停電対策に乾電池を買い込んだりする人たちも多くいた。

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台風が過ぎ去り、各地の被害状況が報道等で明らかになってきた。今回は大量の豪雨により60以上の河川が氾濫し、家屋や自動車の浸水、流出、冠水家屋の住民の孤立など、水害被害が深刻である。

一方、停電の発生状況はどうだろうか?

10月13日12時時点:停電戸数は262,150戸(北海道電力管轄40戸、東北電力管轄20,670戸、東京
電力管轄186,700戸、中部電力管轄54,400戸、関西電力管轄240戸、中国電力管轄100戸未満)

10月15日4時時点:停電戸数は37,470戸(東北電力管轄1,600戸、東京電力管轄21,800戸、中部電力管轄14,070戸)

台風15号のときは、9月9日3時~関東上陸し、9月11日6時30分時点で、停電戸数470,800戸(東京電力管轄の千葉県461,400戸、神奈川県9,400戸)にのぼった。14日13時時点停電戸数は147,700戸(全戸千葉県)。というわけで、今回の台風19号による停電は、前回15号のときと比較して、その勢力規模からすると明らかに少なかった上に、復旧も早かったと言える。(経済産業省発表データ参照)

ちなみに台風の勢力規模は次の通り、(ウィキペディア等参照)

・最低気圧:台風19号 915hPa、台風15号 955hPa
・最大風速:台風19号 55m/s、台風15号 45m/s
・最大面積:台風19号 約140万km/㎡、台風15号 約12万km/㎡
・平均速度:台風19号 27.6km/h、台風15号 31.5km/h

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前回、台風15号により多くの停電が発生し、その復旧に時間がかかった原因のひとつとして、この激しい台風が房総半島を直撃するルートとなったことが挙げられる。

外房地域への送電は山間部一帯に送電線を敷設して行っている。暴風は山間部の樹木や鉄塔をなぎ倒し、送・配電設備にダメージを与え、大規模な停電を発生させた。送電線は長く、また敷設エリアへのアクセス自体が平野部ほど容易でない。倒木も多い。当然停電の解消には時間がかかる。また君津市、南房総市など井戸水を飲用水として利用している地域では、停電により汲み上げポンプが動かなくなり、断水が発生した。

こうした事態から東京電力の復旧見通しの見積もりの甘さを非難する人もいた。また自治体首長の対応の拙さに批判の矛先を向ける人もいた。

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今回の19号台風では、河川の氾濫による被害が多く報じられているが、多摩川から1㎞ほど離れている武蔵小杉において駅が冠水し、自動改札機やエスカレーターが止まっていると報じられた。これは一体どういうことか?

川崎市によると、武蔵小杉の冠水は雨水を多摩川に流すはずの排水管から川の水が逆流したことが原因と考えられると言う。
→河川氾濫、地形も要因か 多摩川一部、排水管逆流し冠水 (東京新聞 TOKYO Web)

また武蔵小杉の47階建てタワーマンション、パークシティ武蔵小杉では地下にある電気系統設備が浸水し、停電。エレベーターは止まり、水の汲み上げポンプも動かないため、断水し、住民は住居内のトイレが使えない状況に置かれていると言う。
→武蔵小杉の47階建てタワマン断水 24階より下が停電 (朝日新聞デジタル10月15日)

今後は、(河川への排水管出口を閉めなかった)川崎市水道局の判断の是非や、マンション開発事業者の(電気系統を地下階で管理すること等)設計自体に間違いがなかったか?など管理責任を問う局面がやってくるだろう。

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想定外の大型台風は、私たちのライフラインである電気の供給を障害し、電気で稼働する設備・機器を動かなくしてしまう。そうすると電気のある生活にどっぷりはまっている私たちは、たちまち困ってしまう。電力会社の人たちが必死に復旧工事にあたっていても、やれ遅いとか、見積もりが甘いとか非難の声があがってしまう。

そこで私たちは、いざ電源喪失した場合に(電力会社頼みではなく)自力で電気を復旧する非常用電源というものを本気で開発すべきではないか?そしてこれらを各住戸・事業所にあまねく配備することこそ、より本質的な防災・減災対策なのではないかと思った。

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過日、旭化成名誉フェロー、吉野彰さんがリチウムイオン電池の開発に貢献したことで、アメリカの2人の教授と共にノーベル化学賞を受賞した。画期的な産業技術の開発に日本のサラリーマン技術者が貢献したというのは誇らしいことだ。同時にわが国で産業技術の基礎研究が企業組織内で積み上げられているということも知れ、吉野さんの庶民的な人がらも知れて、たいへん喜ばしく、元気が出てくるニュースだった。

リチウムイオン電池は小型で発電効率もよく、繰り返し充電が可能なことから、携帯電話やパソコン、電気自動車や電動アシスト自転車、人工衛星など幅広い分野で利用される電源となった。吉野さんはリチウムイオン自体、まだその性質の1、2%くらいしか分かっていないと語っている。いずれ後進の人たちが更に深く研究を進めて、より高性能な改良型リチウムイオン電池を開発するだろうし、リチウムより電池としての特性が優れた物質が発見される可能性もある。

私たちはこのリチウムイオン電池、あるいは将来それに取って代わる高性能電池をあらためて「非常用電源」としてとらえ返し、家庭用、産業用に電源喪失時のバックアップ電源として規格化を進めるのだ。この電池は、平時には従来のコンセント電源につないで充電しておいて、非常時に電源として使われる。太陽光パネルとつないで充電してもよい。エネルギー変換効率と蓄電性能を究極まで高めることができたら、もう停電を恐れる必要はないかもしれない。

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電気料金はどうやって決まるのか?-原発ってそういうものだったのか会議⑤ [電力論]

わが国の電気料金はどのように決まるのか?

実は「料金が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること」(電気事業法第19条)を条件として、国が許可して決まるのだ。

これは発電所や送電設備の建設費用、保守・メンテナンス費用、原料費(ウラン、原油、石炭etc.)から運営にかかわる人間の人件費etc.にいたるまで、発電にかかったコストを積み上げて「総括原価」として算出し、これに一定の報酬率(=利益)を上乗せして電気料金を決めなさいと、(驚くなかれ)国が事業者の利益を予め法律で保証してあげているということなのだ!

わが国では第二次世界大戦後、国家統制下にあった電力事業が再編制され、9つの地域電力会社が生まれた。地域電力会社は民間資本の会社でありながら、国の規制・保護を受けながら、積極的な設備投資を行って自らの利益を増大させる法的な基盤があったのだ。

背景には、戦後の焼け野原から時間をかけずに、社会のインフラとしての電力供給を全国あまねく公平に、かつ安定的に行って、産業振興と国民生活の向上を図ろうという「国家の意志」(≒時の政治家や官僚の総意)があって、このようなスキームができたと見るべきだろう。〔もっともこの点、反原発の急先鋒・京都大学原子炉実験所の小出裕章助教は電力会社に原子力発電をやらせることによって、核兵器を開発する技術的能力をわが日本国が平和裡に保有するという隠れた思惑を指摘している。(小出裕章『原発はいらない』ほか) このことはまた別の機会に触れてみたい。〕

いずれにせよ、戦後の歴史においてそれなりの意味があった「総括原価方式」であったが、福島原発事故以降に生きるわれわれにとってはゼロベースで見直すべき仕組みである。

東電の料金、高めに原価設定か?(9月6日 朝日新聞)
東電の電気料金算定根拠見直す必要(9月6日 読売新聞)

設備投資から人件費まで、コストはなるべく高めに申請するにこしたことはないとの考え方が電力会社側にあるのだろう。これは企業倫理云々の話ではない。コストが利益に直結する、この仕組みが問題なのだ。

とにかく仕組みを抜本から見直して、ゼロベースから「あるべき」現在の仕組みを構築すること
 -これは政治の仕事ですぞ。


原発の本当のコスト-原発ってそういうものだったのか会議② [電力論]

資源エネルギー庁が公表しているわが国の電源別の発電コストは以下の通りである。

・火力発電:7~8円/kWh(※LNGの場合)
・水力発電:8~13円/kWh(※小規模発電を除く)
・原子力発電:5~6円/kWh
・風力発電:10~14円/kWh(※大規模発電の場合)
・地熱発電:8~22円/kWh
・太陽光発電:49円/kWh

【出所】
水力・火力・原子力発電:総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会
(2004年1月)
風力発電:総合資源エネルギー調査会第7回新エネルギー部会(2001年6月)
地熱発電:地熱発電に関する研究会(2009年6月)
太陽光発電:太陽光発電協会のデータより資源エネルギー庁試算(2001年6月)

これを見るとわが国では原子力発電は最もコストのかからない電源ということになる。

一方、立命館大学の大島堅一教授(環境経済学)は国の発表している原子力発電のコストに疑問を持ち、1970年以降の電力会社の有価証券報告書や国の予算書などから独自に原子力発電のコスト試算を行った。大島教授によると国のコスト試算で考慮されていないコストがあると言う。

1.揚水発電のコスト:
原子力発電は出力調整が難しいため、夜間の電力が余ってしまう。そこで夜間の余剰電力を使ってポンプを動かし、水を汲み上げ、昼間にこれを流して水力発電する、いわゆる「揚水発電」という電力需給調整の仕組みがセットになっているが、この揚水発電のコストが入っていないと言う。

2.使用済み核燃料や放射性廃棄物の処理コスト:
原子力発電に伴って発生する使用済み核燃料は、その半分を青森県・六ヶ所村の再処理工場で処理することになっていて、この処理コスト19兆円は試算に入っているが、残りの処理方法未定分の処理コストが考慮されていないと言う。同様に放射性廃棄物の処分コスト、廃炉のコストも原子力発電に付随して発生するバックエンド費用として考慮しなければならないが、これらが過小に見積もられていると言う。

3.補助金のコスト:
日本国は一般会計のエネルギー対策費、電源開発促進対策特別会計(電源立地勘定+電源利用勘定)(→2007年度からはエネルギー対策特別会計に引き継がれる)をあわせ、エネルギー事業関連の国家予算を持っている。大島教授は電源別に財政支出の割合を推計して、原子力発電向けに大きな割合で財政支出が行われていることを明らかにした上、この財政支出が発電のコストとして考慮されていないことを指摘する。

【コメント】
わが国の原子力関連の年間国家予算はおよそ4000億円にのぼる。わが国はこの国家予算を各種補助金としてばら撒き、原発の立地エリアを確保し、地域の公共施設やインフラを整備し、地域住民を懐柔し、あるいは核燃料サイクルなど原子力利用技術の研究助成を行いetc.といった具合に、「お金」の力をテコとして原子力政策を推し進めてゆく仕組みができている。「原子力は国策」と言われる所以である。

この「お金」は電力会社から見れば外からやってきた補助金のため、コストという認識が生じにくいが、国民(=利用者)から見れば明らかにコストである。なぜなら補助金の原資は国民からのピンハネ金、あるいは未来の国民からのピンハネ金だからである。[ちなみに国家エネルギー対策特別会計(旧電源開発促進特別会計)は私たちの電気料金に0.375円/kWh(2007年4月~施行税率)の割合で賦課される電源開発促進税を直接の財源としている。] (青木)

4.事故に伴う被害コストと被害補償コスト:
「直接的事故対応」「電力事業者の経済的損失」「被害対応」と事故が起きた時の費用は莫大で、事業の継続自体が困難になるものだと大島教授は指摘する。

【コメント】
この度の福島第一原発の深刻な事故で明らかになったこと、それはひとたび事故が起きると、関連して様々な被害が出てきて、被害のコスト、また被害の補償のためのコストが計り知れないほど増大するということだ。
原子炉の冷却、放射能汚染水の処理、緊急臨時の電源確保、放射能瓦礫の除染と撤去etc.…といった事故収束のコストにはじまり、原発周辺住民の財産(土地・建物・家財道具・家畜・生産品etc.)に関わる放射能汚染被害、子孫にまで及ぶかも知れない放射能汚染による健康被害などの補償コスト、さらには放射能汚染から二次的に惹き起こされる様々な被害(風評被害、避難対象地域での窃盗被害、疎開先の不自由な生活からくる病気やストレス被害etc.…)の補償コスト、原子力行政のコスト(ストレステスト実施や新しい安全基準の導入etc.)とトータルのコストは極めて甚大である。

以上のコストをトータルで見てみると原子力発電の発電コストは安いとは言えないだろう。
また原子力発電事業は一民間会社が担える以上のリスクを持っていると考えるべきだろう。(青木)

大島教授は1~3までのコストを考慮した試算を行い、2000年代の原子力発電の発電コストを8.93円/kWh、揚水発電とのセットでのコストを10.11円/kWhと発表している。原子力発電の低コスト神話が崩れ去ってしまう数値である。

参考URL1 原発の本当のコスト(大島堅一立命館大学教授のレジュメ)

参考URL2 立命大・大島教授「採算取れない電源」 原発政策、コスト面で指摘
         (毎日新聞地方版2011年7月21日)

大島教授は価値があるいい調査をしてくれました。感謝いたします。



原発ってそういうものだったのか会議 [電力論]

私たち凡人は原子力発電は発電コストが安くて、しかも地球に優しい、安心・安全な発電方法だと思っていた。

ところが今回惹き起こされた福島原発事故によって、私たちの漠然とした考え(≒イメージ)が実は間違っていたのではないか?という原子力発電に関する根本の疑問が生み出された。私たちの考えは自分の頭で考えて導かれたものではなく、テレビや新聞報道に接しているうちに自分の頭に刷り込まれたイメージにすぎない。私たちはうっかり騙されていたのだ。

では凡庸なる私たちに、こんなイメージの刷り込みをしてくれたのは、一体だれで、どんな意図からなのか?

私たちは原子力村の存在を知らされた。
そこにはいろんな大人の事情があるらしいこともわかってきた。
政界・官界・財界・学界・報道界と組織横断的に拡がっていく原発利権の病巣に気がついたのだ。

もう騙されないぞ!と思う。

来月は今回の原発事故をめぐる様々な問題について検討を加えてみたい。











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