SSブログ

ニューワールドオーダー-プーチンの国連演説 [統治論]

皆さん、お元気でしょうか?
今回は新春特別企画として、ロシアの指導者、プーチンの第70回国連総会(2015年9月)での演説をお届けします。

★  ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★

覇権国家アメリカの政治的・経済的また軍事的なプレゼンスが弱まっている昨今、各国の国家利害の衝突や民族や宗派の対立はよりむき出しな形をとって表われるようになった。

「民主的か独裁か?」「親米か反米か?」・・・そんな単純二元論では答えを出せない世界である。

プーチン大統領は国連演説で、そんな21世紀の世界に対する、自身の‘現実的’かつ‘優れた’所信を表明した。

(以下演説)

尊敬する代表の皆さん!尊敬する国連事務総長殿!尊敬する各国首脳の皆さん!紳士の皆さん!
国際連合の70周年は、歴史と我ら全員の将来を考えるのによい機会です。

1945年、ナチズムを打倒した諸国は、戦後世界の秩序を築くべく努力を結集しました。
思い起こしたいのは、国家間関係の原則に関する重要な決断と、国際連合の創設に関する決断は、我が国のヤルタにおける反ヒトラー連合の首脳会談で採択されたということです。ヤルタ体制は、この星で20世紀に起こった二度の世界大戦に出征した何千万という人々の生命に実際に敬意を払ったものであり、過去70年間の過酷で劇的な出来事の中で客観的に人間性を保つ助けとなり、世界を巨大な波乱から救ったのです。

国際連合は、その正当性、代表性及び広範さにおいて比類なきものであります。たしかに過去、国連の場においては少なからぬ批判がありました。これは効率性の不十分さを示すものであり、特に国連安保理のメンバー国間では重要な決定に関して覆いがたい対立があります。

しかし、申し上げたいのは、国際連合が存続してきた70年間において、意見の相違は常に存在していたということです。そして拒否権も常に行使されてきました。米国も、英国も、フランスも、中国も、ソ連邦も、そして後のロシアもこれを行使してきました。これは多面的な代表機関ではごく自然なことです。国際連合の基本として、そこでひとつの意見が圧倒的であるということは想定されていなかったし、今後もないのです。この組織の本質とは、妥協を模索し、生み出すことなのであり、多様な意見や観点を考慮に入れることがその力になっているのです。

国際連合の決定を巡る議論は、決議という形で合意されます。合意に至らない場合については、外交官達の言うところの「うまくいったりいかなかったり」ということになります。そして、この手順を外れれば、いかなる国の行動であっても、それは非合法で、国際連合憲章と現代の国際法に違反することになります。

いわゆる冷戦が終結した後、世界にはひとつの支配的なセンターが残ったことを我々は知っています。そして、このピラミッドの頂点に立った者は、次のように考える誘惑に駆られました。いわく、彼らはかくも強く、特別で、物事をどうすればよいか誰よりもよく知っているのだと。そして彼らには国際連合を顧みる必要などなく、国際連合は彼らの決断に判子をついて追認すればいいのだと。この組織はすでに古くなり、歴史的な使命を終えたのだという話も出ました。

たしかに世界は変化しており、国際連合はその自然な変容に合わせなければなりません。ロシアには、広範な合意に基づき、国際連合のさらなる発展に関する作業に全てのパートナーとともに関与する用意があります。しかし、我々は、国際連合の権威と正統性を損なう試みは極めて危険なものだと考えます。それは、全ての国際関係の枠組みの崩壊につながりかねないものです。そうなれば我々には力のルール以外、いかなるルールも残らないでしょう。

それは、協調がエゴイズムに、平等と自由が支配に、真の独立国家が外から指図される保護領に取って代わられる世界となるでしょう。

では、すでに同僚の皆さん達がここで語った国家主権とはどのようなものでしょうか?これは何よりも自由の問題であり、各人、各民族、各国家が自らの運命を自由に決せるということであります。

そこで、尊敬する同僚の皆さん、いわゆる正統な政府というものについても語りたいと思います。言葉を弄んではなりません。国際法及び国際関係においては、それぞれの用語は明確かつ透明でなければならず、共通の意味を持ち、共通の基準で定義されなければなりません。我々はみんな違っているのであり、そのことについて敬意をもって臨まねばなりません。何人も、誰かが正解だと決めた単一の発展モデルに従わされる必要はないのです。

我々は過去の経験を忘れてはなりません。たとえば我々はソ連邦の経験を援用することができます。ソ連は社会実験を輸出し、イデオロギー的な理由から他国の社会変革を推進しましたが、その結果は時として進歩ではなく混乱でした。

しかしながら、誰もがそのような誤りに学ぶわけではなく、それを繰り返す者もいます。そしていわゆる「民主的な」革命の輸出を続けています。

これ以前の登壇者の方が触れた、中東及び北アフリカの状況を見れば充分でしょう。たしかにこれらの地域おける社会経済的状況は長らく混乱しており、人々はそれを変革したがっています。ですが、実際の結果はどうでしょうか? 改革をもたらす代わりに、攻撃的な介入が国家機関と現地の人々の生活を破壊しているではありませんか。民主主義と進歩の代わりに、今そこにあるのは暴力、貧困、社会不安、そしてただ生きる権利を含めた人権の全くの無視ではありませんか。

そこで、このような状況を作り出した人々に私は問いたい。あなた方がやったことを少なくとも理解くらいはしているのだろうか、と。しかし、私が恐れるのは、傲慢と、例外主義と、罪悪感のなさゆえに彼らがその政策を撤回せず、答えがないままこの問いが虚しく空中に消えることです。

今日、われわれはイラク、シリア、そしてテロリスト集団との戦いを行っている他の域内諸国に対して軍事技術上の支援を行っています。テロリズムと面と向かって戦うシリア政府及びシリア政府軍との協力を拒むのは、とてつもない誤りだと我々は考えています。結局、アサド大統領の政府軍とクルド人の反政府部隊以外、シリアでは誰も「イスラム国」とは戦っていないのだということを知るべきです。我々はこの地域にありとあらゆる問題が溢れ、ありとあらゆる矛盾があることを知っています。しかし、現実から出発するよりないのです。

尊敬する同僚のみなさん!我が国のこうした誠実かつ率直なアプローチが、最近、ロシアが野心を募らせているのだという非難の材料にされていることを指摘せねばなりません。そう言う人々にはまるで野心など少しもないかのようです。しかし、同僚のみなさん、核心はロシアの野心などにあるのではなく、現在の世界情勢はもはや耐え難いものになってきているという点にあるのです。

実際に我々が提案したいのは、野心ではなく国際法に基づいた共通の価値や共通の利益によって統治を行い、今、目の前に立ちはだかる新たな問題を解決するために努力を結集して、真に広範な国際反テロリスト連合を設立することです。反ヒトラー連合がそうだったように、反テロリスト連合は大きく立場の異なる勢力を結集し、人類に害悪と憎悪をばらまくナチスのごとき連中と決然と対抗することを可能とするでしょう。

そしてもちろん、このような連合の中でも特に重要な参加国は、ムスリム諸国でなければなりません。というのも、「イスラム国」はこれら諸国に対する直接的な脅威であるばかりか、世界で最も偉大な宗教のひとつであるイスラム教の名誉を汚しているからです。「イスラム国」のイデオローグたちはイスラムの真似事をやっているのであり、その真の人間的な価値を損なっているのです。

ムスリムの精神的指導者のみなさんに申し上げたい。あなた方の権威と、あなた方の導きとが、今、とても重要なのです。過激主義者の勧誘の対象になっている人が軽率な決断をしないようにせねばなりません。様々な理由からそうした決断をすでに下してしまった人、すでにテロ組織に参加してしまった人には、通常の生活に戻り、武器を置き、兄弟殺しの戦争をやめるように救いの手を差し伸べてあげなければなりません。

ロシアは近く、中東地域における脅威の複合的な分析に関する大臣級会議を、安保理の議長国として招集します。ここではまずもって、「イスラム国」やその他のテロリスト集団と戦う全ての勢力の活動を調整することについての決議に合意できるかどうかを話し合うよう提案するつもりです。繰り返しますが、このような調整は国連憲章の原則に則らなければなりません。

国際社会は、中東の政治的安定と社会経済的な復興のための総合的な戦略を策定することができると我々は考えています。尊敬する友人の皆さん、そうなればもう難民キャンプを作る必要はなくなります。今日、故国を離れねばならない人々の数はまず隣国で、続いて欧州で膨れ上がっています。その数は数十万になっており、今後は100万の単位になるかもしれせん。つまり、これは新たな悲劇的な難民の波であり、欧州を含む我々全てにとっての重い教訓であります。

リビアの国家機構を再建し、イラクの新政府を援助し、シリアの正統な政府に全面的な支援を行うことは極めて重要であると考えます。

以下の点を強調しておきたいと思います。難民の人々には同情と支援が絶対に必要とされています。しかしながら、この問題の解決は、破壊された政府を回復し、まだ残っている、ないし回復されつつある機構を強化し、困難な状態にある国及び万策尽きて故国を去らねばならなくなった人々に、軍事的、経済的、物質的な全面的援助を提供することによってしか成し遂げられません。もちろん、主権国家に対するいかなる援助も強制されたものではなく、国連憲章のみに依拠してこそ可能なのであり、そうでなければなりません。国際法の規範に従ってこの分野で行われ、あるいは行われるであろう全てのことは、国際連合の支援を得ねばならず、国連憲章に違反する全てのことは拒絶されるべきです。

尊敬する同僚の皆さん、国連の下における国際社会の枢要な課題は、平和並びに地域的及びグローバルな安定を維持することです。

我々の見方によれば、これは平等かつ一体的な安全保障の空間をつくりあげるということです。この安全保障は全ての人々のためのものであって、選ばれた人のものであってはなりません。たしかに労多く、困難な作業ですが、これに代わるものはないのです。

しかしながら、冷戦時代のブロック思考と、新たな地政学的空間を利用しようという思考に完全に支配されている同僚諸君が、残念ながら若干存在します。まず、NATOの拡大路線が続いています。問いたいのですが、ワルシャワ・ブロックが存在しなくなり、ソ連邦が解体したにも関わらず、これは一体何のためなのでしょうか? しかもNATOは単に存続しているだけでなく、その軍事的インフラとともに拡大しているのです。

そして旧ソ連諸国には、西側に加わるか、東側に残るかという偽りの選択が突きつけられています。このような対立の論理は、遅かれ早かれ、深刻な地政学的危機に至らざるを得ません。これはまさにウクライナで起こったことです。国民の圧倒的多数が政府に対して抱く不満を外国が利用してクーデターを起こしたのです。その結果は内戦でした。

この流血を止め、八方ふさがりの状況を抜け出す為には、今年2月12日のミンスク協定を誠実かつ完全に履行するほかないと我々は確信しています。軍事力の脅しによってはウクライナの一体性を保つことはできません。行動しかないのです。ドンバスの人々の利益と権利を真に考慮し、彼らの選択を尊重し、ミンスク協定において重要な国家の政治的要素として規定されている通り、それに同意しなければなりません。このようなステップを踏むことで、ウクライナは文明国家として、そしてヨーロッパとユーラシアにおける総合的な安全保障空間を創設する上での最重要の結節点として発展することになりましょう。 (以上)

演説翻訳転載元:
「アラブの春」を恐れるロシア-国連総会でプーチンは何を語ったか(前編) 
名誉挽回にもがくロシア -国連総会でプーチンは何を語ったか(後編) WEDGE Infinity

★  ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★

演説は冒頭、国際連合が20世紀の二つの世界大戦を経て、何千万人の生命の犠牲によって贖われた歴史の産物であることを振り返った上で、「過去70年間の過酷で劇的な出来事の中で客観的に人間性を保つ助けとなり、世界を巨大な波乱から救ったのです。」・・・このように国連の大いなる意義を総括する。

そこから、国家間関係に深刻な対立が生じたり、テロリスト集団が各国の平和と安定に対する脅威として立ち現れた場合、あくまでも国際法に則り、国連を通じた合意形成を旨として、事にあたるべきとの論を展開する。

主権国家に対する外からの支援は、国連憲章に依拠し、国際法に則ったものでなければならないという原則が繰り返し語られる。

たとえその仕組みが不完全で、現状において多くの欠陥があるにしても、国連の枠組みで問題の解決を図るのだ、という強い意志が伝わる。

至極真っ当な‘国連統治論’である。

また覇権国家アメリカが国連を軽視し、国連決議によらないで、勝手に<「民主的な」革命の輸出>を行うことによって、かえって輸出先の地域に暴力と貧困、社会不安と人権の蹂躙をもたらしている現実をずばり批判している。

さらに演説は、ロシアが取り組んでいるシリアやウクライナ等の問題におよぶが、自国はどういう立場にあるのか、見事な論陣を張っている。

今年は国際社会において、ロシアのプレゼンスがさらに強まると思っている。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。