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地下水涵養-ドラえもん会議⑤ [治水論]

19号台風は10月12日夜に伊豆半島上陸後、関東甲信越から東北にかけて広範な地域に大量の降雨をもたらし、13日朝太平洋へと抜けていった。70以上の河川が決壊、140か所以上の堤防決壊さらに越水も含めた氾濫規模はすさまじく、国土交通省によれば、浸水面積は平成30年7月の西日本豪雨の約1万8500haを超えると言う。(ウィキペディア等より)

一方12日は想定外の降雨量となり、テレビではダムの緊急放流が予告されたり、予告より遅れたり、気を揉む報道がされていた。わが家は多摩川に近いこともあって、この日の夕方ネットでライブカメラ映像を確認すると、調布市石原とか世田谷区二子玉川付近などは相当に河川の水位が上がっているのがわかった。携帯電話には土砂災害、河川氾濫の警戒メールが次々と入ってきて、否が応にも緊張が高まった。

結局、台風は夜半に過ぎていき、翌13日になって、テレビで被害の実態がわかるようになった。

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水位が急上昇した多摩川の川崎市側では、支流の平瀬川の水が多摩川に流れ込めず逆流する「バックウォーター」なる現象が生じ、この合流付近(高津区久地)の住宅が浸水被害にあった。また前回記した通り、多摩川から1km離れた武蔵小杉(川崎市中原区)は、排水管を多摩川の水が逆流する同様の現象によって、行き場を失った水による「内水氾濫」が起きた。もともと沼地に盛り土をして造った街であることは昔の住民でないとなかなか知らないことだ。

一方、対岸の世田谷区二子玉川付近はちょうど支流の野川と合流する辺りに樹木が生い茂り、特有の風情が醸されていて、その中にマンションが数棟建っている。この辺りが真っ先に浸水した。というのも、これらのマンションは堤防内(河川側)に建っているのだ。(これはその昔、この付近に十数軒あった旅館や料亭が、景観を楽しめなくなるという理由で、堤防の整備に反対してきた歴史の名残なのだ。)

参考→「堤防あると景観楽しめない」多摩川氾濫の背景に住民の反対も (アエラネット)

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今回わかったことのひとつに、国土交通省や自治体が公開している洪水ハザードマップは割と正確だということがあった。これは今後の防災・減災の指針として信用してよいものと思えた。

一方近年、私たちの想定範囲を超えるレベルで、台風・暴風雨など激しい気象変動が頻発するようになり、あらかじめ想定された河川堤防の高さや貯水池容量で大丈夫なのか?従来の防災対策自体の有効性が問われることとなっている。

こういった事態に対しては、より一層厳しい防災基準(堤防の高さ等)の適用を求める識者もいれば、河川氾濫のリスクを織り込んだ(避難のオペレーション等に重点を置いた)減災対策を唱える識者もいる。

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産業が興り、事業所ができて、そこに通う人びとの宅地や商業施設が集積してゆき、舗装道路網や地下水道網などのインフラが整備される・・・このような都市化の進展は人類の不可逆の歴史である。
(これ自体を否定する考えはない。)都市はその住民にとって、機能性に優れた便利な場所となる。

しかしそれは一方で、コンクリートやアスファルトに固められた人造都市への道であった。コンクリートやアスファルトは太陽熱に加えて、都市住民の諸活動によって産生される熱エネルギーもため込む。かくして都市部の気温は上昇し、夏は猛暑日が頻発する。ヒートアイランド現象である。

また道路が舗装され、河川の護岸工事や地下水道の整備が進むと、従来の大地のエコシステムが変調をきたす。すなわち従来は雨水が土壌から自然に地下浸透して、地下水が涵養されていたが、それが阻害される。地下水の水位が低下して、地盤沈下や地下水の塩水化が進行する。また今回の台風のように大量の降雨に見舞われると、3面をコンクリートに固められた小河川支流からの水を集めて、急激に本流の水量が増加して、(広義の)鉄砲水の如くにパワーを増す。(註)

(註)もっとも大量降雨は、(主として山間部の)地盤が過剰に水を含むことで崩壊につながり、土砂崩れや土石流の発生のリスクを増大させる。この対策として各種のコンクリート施工を行う砂防事業を否定するものではない。

「水は高いところから低いところへ流れる」「容量をオーバーした水はこぼれだす」・・・こういった小学生でも理解できる単純な物理現象が、あらためて各所で確認できてしまった。同時に洪水ハザードマップの正確さも実証されることとなった。

地上への降雨とそれが及ぼす作用について、水力学の視点で理解することは、治水対策の第一歩の基本である・・・これは私にとって学びであった。

その一方で、近年の気象変動の激甚化を考えると、降雨量をどのレベルまで想定するか、防災基準を決めること自体難しく、水力学の視点からの制御を補完する何か別の方策が必要になってくると感じた。

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本会議では、自然の降雨それ自体を上手に利用することを眼目として、治水対策を提言したい。
地下水涵養(Groundwater Recharge)、これがカギとなる概念である。

わが国では、今から約1万年前、富士山の噴火によって大量の溶岩流が発生した。溶岩流は愛鷹山と箱根山の谷間を埋め尽くし、現在の三島市、長泉町あたりまで流れ下った。この30km以上におよぶ「三島溶岩流」は水をよく通す地層を形成した。上流域で降った雨や雪は地中に流れ込み、溶岩流の地層をゆっくり移動して、下流域の三島湧水群や柿田川に湧き出している。

参考) 溶岩流 from 富士山(伊豆半島ジオパーク)

   三島市の水(三島市ホームページ)

溶岩石は多孔質で、酸素を多く含んだ水が入り込んでくることで、土壌微生物叢にとって最適な棲息環境となる。微生物叢は地下水の有機物を分解し、濾過して、ミネラル豊富な水として地下涵養される。三島溶岩流は実にすばらしいエコシステムを形成しているのだ。

ここから発想して、溶岩流の地層に相当する帯水層(地下水をため込む地層)を人工的に造ることをやってみたらどうだろうか?

地下水水位をモニタリングして、基準値以下のエリアについて、人工帯水層を埋め込んで、地下水を涵養する。地上の水力学的な治水対策とパラレルで、アンダーグラウンドの公共事業をやるのだ。

どの程度の面積規模でやる必要があるのか?現在の公園や貯水池、あるいは農地などを転用することはできるのか?道路のアスファルトを引っ剥がしたり、地上の構造物を解体する必要はあるのか?溶岩石をどうするのか?場合によっては溶岩石に相当する多孔質の石を工業的に大量生産する必要があるのか?etc.いろいろ考えなければならないが、、、

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インドネシアでは、首都ジャカルタとその近隣湾岸部の地盤沈下が深刻なようだ。同時に地球温暖化による海面上昇にも直面しており、防潮堤は毎年泥縄式に嵩上げされているという。海沿いのエリアには、経済発展の恩恵に浴せずにいる貧困な人びとが多く居住し、生活用水は地下水の汲み上げに頼っている。このような現状もあり、ジャカルタでは実に毎年20cmの速度で地盤沈下が進行している。

この地も「地下水涵養」の視点から問題解決できないか?一考の余地はあると思う。

追記 東カリマンタンへの首都移転、2024年中に開始


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非常用電源ードラえもん会議④ [電力論]

台風19号は、先日房総半島で甚大な被害をもたらした台風15号を上回る超大型の勢力だということで、テレビでも盛んに注意・警戒が呼びかけられていた。

多くの商業施設は早々臨時休業を決め、鉄道会社も早めの運休見通しを出した。前回15号台風の教訓からか、窓ガラス破損対策に養生テープを買い込んだり、停電対策に乾電池を買い込んだりする人たちも多くいた。

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台風が過ぎ去り、各地の被害状況が報道等で明らかになってきた。今回は大量の豪雨により60以上の河川が氾濫し、家屋や自動車の浸水、流出、冠水家屋の住民の孤立など、水害被害が深刻である。

一方、停電の発生状況はどうだろうか?

10月13日12時時点:停電戸数は262,150戸(北海道電力管轄40戸、東北電力管轄20,670戸、東京
電力管轄186,700戸、中部電力管轄54,400戸、関西電力管轄240戸、中国電力管轄100戸未満)

10月15日4時時点:停電戸数は37,470戸(東北電力管轄1,600戸、東京電力管轄21,800戸、中部電力管轄14,070戸)

台風15号のときは、9月9日3時~関東上陸し、9月11日6時30分時点で、停電戸数470,800戸(東京電力管轄の千葉県461,400戸、神奈川県9,400戸)にのぼった。14日13時時点停電戸数は147,700戸(全戸千葉県)。というわけで、今回の台風19号による停電は、前回15号のときと比較して、その勢力規模からすると明らかに少なかった上に、復旧も早かったと言える。(経済産業省発表データ参照)

ちなみに台風の勢力規模は次の通り、(ウィキペディア等参照)

・最低気圧:台風19号 915hPa、台風15号 955hPa
・最大風速:台風19号 55m/s、台風15号 45m/s
・最大面積:台風19号 約140万km/㎡、台風15号 約12万km/㎡
・平均速度:台風19号 27.6km/h、台風15号 31.5km/h

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前回、台風15号により多くの停電が発生し、その復旧に時間がかかった原因のひとつとして、この激しい台風が房総半島を直撃するルートとなったことが挙げられる。

外房地域への送電は山間部一帯に送電線を敷設して行っている。暴風は山間部の樹木や鉄塔をなぎ倒し、送・配電設備にダメージを与え、大規模な停電を発生させた。送電線は長く、また敷設エリアへのアクセス自体が平野部ほど容易でない。倒木も多い。当然停電の解消には時間がかかる。また君津市、南房総市など井戸水を飲用水として利用している地域では、停電により汲み上げポンプが動かなくなり、断水が発生した。

こうした事態から東京電力の復旧見通しの見積もりの甘さを非難する人もいた。また自治体首長の対応の拙さに批判の矛先を向ける人もいた。

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今回の19号台風では、河川の氾濫による被害が多く報じられているが、多摩川から1㎞ほど離れている武蔵小杉において駅が冠水し、自動改札機やエスカレーターが止まっていると報じられた。これは一体どういうことか?

川崎市によると、武蔵小杉の冠水は雨水を多摩川に流すはずの排水管から川の水が逆流したことが原因と考えられると言う。
→河川氾濫、地形も要因か 多摩川一部、排水管逆流し冠水 (東京新聞 TOKYO Web)

また武蔵小杉の47階建てタワーマンション、パークシティ武蔵小杉では地下にある電気系統設備が浸水し、停電。エレベーターは止まり、水の汲み上げポンプも動かないため、断水し、住民は住居内のトイレが使えない状況に置かれていると言う。
→武蔵小杉の47階建てタワマン断水 24階より下が停電 (朝日新聞デジタル10月15日)

今後は、(河川への排水管出口を閉めなかった)川崎市水道局の判断の是非や、マンション開発事業者の(電気系統を地下階で管理すること等)設計自体に間違いがなかったか?など管理責任を問う局面がやってくるだろう。

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想定外の大型台風は、私たちのライフラインである電気の供給を障害し、電気で稼働する設備・機器を動かなくしてしまう。そうすると電気のある生活にどっぷりはまっている私たちは、たちまち困ってしまう。電力会社の人たちが必死に復旧工事にあたっていても、やれ遅いとか、見積もりが甘いとか非難の声があがってしまう。

そこで私たちは、いざ電源喪失した場合に(電力会社頼みではなく)自力で電気を復旧する非常用電源というものを本気で開発すべきではないか?そしてこれらを各住戸・事業所にあまねく配備することこそ、より本質的な防災・減災対策なのではないかと思った。

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過日、旭化成名誉フェロー、吉野彰さんがリチウムイオン電池の開発に貢献したことで、アメリカの2人の教授と共にノーベル化学賞を受賞した。画期的な産業技術の開発に日本のサラリーマン技術者が貢献したというのは誇らしいことだ。同時にわが国で産業技術の基礎研究が企業組織内で積み上げられているということも知れ、吉野さんの庶民的な人がらも知れて、たいへん喜ばしく、元気が出てくるニュースだった。

リチウムイオン電池は小型で発電効率もよく、繰り返し充電が可能なことから、携帯電話やパソコン、電気自動車や電動アシスト自転車、人工衛星など幅広い分野で利用される電源となった。吉野さんはリチウムイオン自体、まだその性質の1、2%くらいしか分かっていないと語っている。いずれ後進の人たちが更に深く研究を進めて、より高性能な改良型リチウムイオン電池を開発するだろうし、リチウムより電池としての特性が優れた物質が発見される可能性もある。

私たちはこのリチウムイオン電池、あるいは将来それに取って代わる高性能電池をあらためて「非常用電源」としてとらえ返し、家庭用、産業用に電源喪失時のバックアップ電源として規格化を進めるのだ。この電池は、平時には従来のコンセント電源につないで充電しておいて、非常時に電源として使われる。太陽光パネルとつないで充電してもよい。エネルギー変換効率と蓄電性能を究極まで高めることができたら、もう停電を恐れる必要はないかもしれない。

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