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本当に怖いのか?TPP ー2014年新春特別企画 [統治論]

皆様お元気でいらっしゃいますか?

昨年度は本会議のブログアップがひとつもないまま終ってしまった。
大丈夫なのか?と思われた方、すみません、こちらはなんとかやっています。

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さて、今年の私の関心事、国内問題としては「徳州会」、国際問題としては「TPP」がある。

TPPは国家主権にかかわる問題を孕んでいる。日本復興会議としても看過できない問題だということで、今回は新春特別企画(!?)としてTPPについてふれてみたいと思う。(徳州会の問題は別の機会ということで願います)

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アメリカの独立系放送局が、市民団体がリークしたTPP交渉の内実について取り上げている。
デモクラシーナウ!2012年6月24日放送分

レポートしているロリ・ウォラックは「パブリック・シチズン」の国際貿易調査部門の人で、この「パブリック・シチズン」はタフネゴシエイターとして知られる消費者運動家、ラルフ・ネーダーが設立したアメリカの市民団体である。

密室交渉で過激になり、大企業の“権利章典”と化したTPP草案をリークし、分析して、何が起こっているのか!を白日の下に晒してくれた。「パブリック・シチズン」の意義ある活動には大いに感謝いたします。

わが日本国では山田正彦議員が中心となって、「TPPを慎重に考える会」という超党派の議員連盟が発足。民主党・菅内閣→野田内閣と何故かわからないが、TPP交渉参加に前のめりな姿勢が出てくる中、議員の勉強会は盛況となり、またマスコミへの啓蒙活動が同時に進められて、報道も増えることになり、日本国民の間でもTPPの問題点がにわかに認識されるようになった。

このへんの事情はこちらが詳しい。↓
山田正彦著『TPP秘密交渉の正体』 (竹書房新書)


次に民主党・野田内閣がやぶれかぶれの衆議院解散を行って、自民党が政権奪回することになるが、自民党・安倍内閣は、やはり何故だかわからないが、前のめり姿勢を引き継いで、TPP交渉参加を表明してしまった。

国会審議もそこそこに、政権交代の影響も感じられないまま既定路線のように進んだTPP交渉参加。

今は甘利TPP担当大臣の元、120名にのぼる官僚が交渉団として組織され、26分野の作業部会で交渉を行っている状況である。


パブリックシチズンの告発でも問題が指摘されているのが、国家と投資家の仲裁に関する条項(=ISD条項)。
これは投資受入国の法規制や行政指導が原因で進出企業が損害を蒙れば、国際法廷で受入国を訴えて、損害賠償の請求ができるように定めた条項だ。ビデオではいささか過激にこの条項のインチキ性が語られている。

調べてみると、ISD条項というのは1960年代頃から投資協定の条項として盛り込まれることが多くなっているようだ。
外国に進出する企業から見ると、進出先の国家の法制度の変更や運用の仕方で事業運営が左右される危険性があると、進出に二の足を踏むことになる。協定の締結国間でそのような投資リスクを減らすことを目的としたというのがそもそもだろう。

ここに外務省、経済産業省の連名でISD条項を解説した資料がある。巷間喧伝される危険な取り決めなのか?分析してみよう。→国家と投資家の間の紛争解決(ISDS)手続の概要

ポイントを整理しよう。

 ■受入国の司法手続きと別立ての国際仲裁手続きを設けている根拠は?

・投資家にとっては投資受入国の裁判所が公平な判断をするか?中立性に対して不安があること

・国際仲裁を設ければ、中立的な場で判断が受けられるため、投資家およびその本国にとって、投資活動を実効的に保護する手段を確保できること

・投資家の投資が確実に保護されるという期待を高めることにより、外国からの投資が促され、投資受入国にとっても経済発展につながること

・投資家と投資受入国との間で投資紛争を直接処理する手段を更に用意することで、紛争が外交問題化するのを避けることができること                           (以上、2頁要約)

→経済連携協定を締結するそもそもの目的を考えると、合理的な根拠があると言える。(ワタクシ)


 ■国際仲裁手続きにはどのようなものがあるか?

・投資紛争解決国際センター(ICSID):
世界銀行イニシアチブで1965年設立された世界銀行傘下の仲裁機関。仲裁地はアメリカ・ワシントンDC。事務局は行程管理等の手続的な側面支援を行うのみで、仲裁判断には加わらない。

・国際商事会議所(ICC)、ストックホルム商業会議所仲裁協会(SCC):
仲裁地は指定されておらず、当事者の合意に基づき決定される。合意がない場合には、仲裁機関が決定する。事務局は行程管理などの手続的な側面支援を行うのみで、仲裁判断には加わらない。

・国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL):
仲裁地は指定されておらず、当事者の合意に基づき決定される。合意がない場合には、仲裁裁判所が決定する。UNCITRAL自体はルール(仲裁手続規則)を提供する機関であり、国連は仲裁判断に影響を及ぼさず、行程管理などの手続的な側面支援も行わない。         (以上、3頁要約)

→TPP協定では上記の仲裁手続きを選択できるようだ。TPP関連の議論では“投資紛争解決国際センター”が世界銀行傘下ということから、投資家寄りの(あるいはもっと言えばアメリカ企業寄りの)仲裁機関として、偏った判断をくだす危険性が指摘される。これに対して本資料では、「(センターの)事務局は行程管理等の手続的な側面支援を行うのみであり、仲裁判断には加わらない。世銀による仲裁判断への影響は一切ない。」と敢えて注意書きを付け足している。アメリカ主導のTPP案でとりわけ問題視される「ISD条項」に関して、日本政府はアメリカと共同歩調をとるということを表明しているとみなせよう。     (以上、ワタクシ)


ISD条項の問題点は何か?あらためて整理する。

ひとつはビデオで指摘されているように、この条項が解釈・運用次第では、「外国籍企業が国庫を略奪するためのパワーツール」となってしまう恐れがあるということだ。

投資紛争解決国際センターを含め国際仲裁は通常3人の仲裁人によって審理し、裁定をくだす。また仲裁人は紛争当事者の投資家と投資受入国がそれぞれ1名を指定し、3人目は当事者間の合意により選定するという。ISD条項に則って国際仲裁が行われた場合、訴えを起こした企業側の代理人弁護士と被告となった国家の代理人で、1対1の判定となるのは必至である。

ということは、当事者間の合意で決まるとされる3人目の仲裁人がどのような性質の人なのかが判決の命運を握っている。しかしながら、「当事者間の合意」というのが、どういう決定の仕方なのかは、上記資料からはハッキリとわからないのである。

民主国家では、国家の住民の合議により、(問題はあるにせよ)一応は民主的な手続きを踏んで国内法が定められる。法律が制定されると、私たち国民はその法律に従う。違反した場合は国内の裁判所で裁きを受けて、処罰対象になる。国内企業も然りである。

ところが、外国籍企業には国内司法制度とは別立ての国際司法制度が用意される。国内法規を実質骨抜きにしうる場が、法治国家の外側に用意されるということだ。「当社のビジネスが貴国でうまくいかないのは貴国の差別的な法律のせいだ!」というイチャモンをつけて、国家に経済的な補償を要求する権利が外国籍企業に与えられるのだ。

しかも用意される国際仲裁の場は、仲裁人の素性がよくわからない上、仲裁人が民主的に選任される仕組みになっているという話は聞いたことがない。


ワタクシは言いたい。

TPPなど国家間の貿易・投資協定において、ISD条項が盛り込まれる主旨は理解できる。

しかしながら、国際仲裁の場は、その中立性が担保される仕組みが絶対に必要である。

わが国のような民主国家が協定にISD条項を盛り込むのであれば、民主的な手続きの規定を入れるべきである。具体的には、国際仲裁の仲裁人は国会での承認を得ることで選任されるようにすべきである。また仲裁の審理の内容は国民がいつでも知ることができるようにすべきである。国際仲裁機関に情報開示義務を負わせるのだ。そして、万一おかしな裁定が出た場合は、仲裁人を入れ替えて再審理できるような仕組みを作るべきである。

またグローバル企業の権利の濫用を防ぐ目的で、例えば協定締結国の間で一定の金銭を国際仲裁機関に供託して、損害賠償額の上限を決めてしまうのも手である。

TPP交渉にあたっては、「わが国は先進国だから大丈夫」とか「過去に訴えられたことはないから大丈夫」と軽く考えてもらっては困る。

ISD条項はグローバル企業が国庫金の収奪を可能にする悪魔のツール、これが本質である。

そして当然のことながら国庫金は私たち国家の住民の稼ぎを原資としている。
主権者国民として、また納税者(taxpayer)としても、交渉の行方はしっかりと見てゆきたい。

2012年3月、TPPに先行して米韓FTAが締結された。この時韓国ではISD条項などが“毒素条項”だとして大問題となったが、結局協定の発効にあたり、60もの国内法の改正を余儀なくされている。また同年11月にはアメリカの投資ファンド、ローンスターが韓国政府の恣意的で、差別的な措置で損害を蒙ったとして、ベルギー韓国投資協定に基づいてISD訴訟を起こしている。(韓国での営業はローンスターのベルギー法人であるため) →KBS報道 ローンスター、韓国政府相手取り投資訴訟へ
ローンスターは米韓FTAの同条項での提訴もあわせて検討しているともされる。
わが国は対岸の火事ではないのだ。

わが国のTPP交渉団は、守秘義務契約を交わして、ドラフト協議に入っているようだ。交渉団に選抜された個々の外務官僚、経済官僚がどんな見識を持ち、どんな仕事ぶりなのか?交渉担当にふさわしい資質を持っているのか?私たち国民は直接に知ることはできない。交渉がどのように進んでいるかも詳しくわからない。(秘密交渉だから当然である)しかし、国家社会のあり方を根本から変えてしまう危険性を孕んでいる「アメリカ案」が土台になっていることを十分に理解して、真の国民利益は何かを踏まえた交渉の成果を勝ち取ってもらいたい。

しかしこの仕事を官僚が担うというのも、ちょっと酷だな。国家公務員が負う責任としては重過ぎる。

わが国はTPP交渉の終盤戦から交渉参加するのだから、いざ参加してみて目にした草案がすでに修正不可能に固まっており、参加のメリットよりデメリットが大きいとわかった暁には、TPP不参加という決定を下さなければならない。

しかしその判断は官僚がする仕事ではないでしょう。

ここにわが日本国の統治体制として不安を感じてしまう一面がある。このことは本稿論旨からは外れるので、また別の機会にしよう。



 ■国際仲裁の利用状況はどうなっているか?

投資協定に関わって起きた国際仲裁は2010年末までに累計390件、うち投資紛争解決国際センターに付託されたものが245件とある。(約63%だ!)また年度推移を見ると、1990年代から急増しているのがわかる。                                       (以上、5頁参照)

北米自由貿易協定(NAFTA) における投資仲裁の件数データから、勝率を算定しよう。

提訴企業:アメリカ29戦7勝11敗3分、ノーコンテスト6、係争中2
       カナダ15戦0勝8敗、ノーコンテスト5、係争中2
       メキシコ1戦0勝0敗、係争中1

被提訴国:アメリカ15戦7勝0敗、ノーコンテスト5、係争中3
       カナダ15戦5勝2敗3分、ノーコンテスト3、係争中2
       メキシコ15戦7勝5敗、ノーコンテスト3

引分け=和解 ノーコンテスト=仲裁不成立、取下げなど (以上、8頁表から作成)


→アメリカ強っ!!!
訴訟大国アメリカには弁護士が100万人近くいるという。また閣僚やロビイストが弁護士であることも多いという。
いまや訴訟ビジネスは、金融工学ビジネスと並んで、アメリカ国家の戦略産業として君臨している。経済力が逓減しているアメリカが、国家戦略として、国家規模の訴訟ビジネスに乗り出したのだ。

「自由で公正な市場競争」

この“資本主義”のドグマを掲げて、超大国は各国の文化・慣行・社会制度を“非関税障壁”として攻撃する。各国固有の文化・慣行・社会制度は経済学上の「劣位」概念に還元される。

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最後にこの人の主張を聞いてもらいたい。

「罪を憎んで人を憎まず」を信条とする人情派警察署長、“寝ぼけ署長”こと五道三省の言葉である。

「法律の最も大きい欠点の一つは悪用を拒否する原則のないことだ、法律の知識の有る者は、知識のない者を好むままに操縦する、法治国だからどうのということをよく聞くが、人間がこういう言を口にするのは人情をふみにじる時にきまっている、悪用だ、然も法律は彼に味方せざるを得ない、・・・・・君はたぶんまた中学生のようなことを云うと思うだろう、結構だ、何とでも思いたまえ、然し中学生は自分の利益のために公憤を偽りはしないぜ」(山本周五郎『寝ぼけ署長』)

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