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シンプルな給付金の支給ルール [私の提言]

2月26日、安倍首相はイベントの自粛要請を行ったが、国家として(イベント中止に伴う)個別の補償はできないという立場を表明している。

確かに個別の事業者の個別の案件について国が関与するのは本来の筋ではないし、実務上も無理があろう。それでも、なんだかなぁ、ひどいなぁ、というのが私の感想であった。

《国家の要請に従った結果、個々の事業者が損害を被った》
どう考えても因果関係がある話だからだ。

国家運営の責任者からはもっと肚の座った第一声を聞きたいところだった。

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その後、さらなる新型コロナウイルスの感染拡大状況を受け、首相は4月7日に東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・大阪府・兵庫県・福岡県を対象地域として非常事態宣言を発出、16日には対象地域を日本全国に拡大した。

イベント興行のみならず、飲食店、百貨店、スポーツクラブ、カラオケ店、パチンコ店、ネットカフェなど幅広い業種にわたって休業の要請が行われ、テレビでは「自粛と補償はワンセットで」という現場事業主の声が連日のように報道されていた。

一方、日本国政府や地方自治体側は緊急の融資制度をスタートさせたり、各種給付金や補助金の策定に向けた動きも見せてはいた。

ただ、日本国政府に関しては、とにかく対応スピードが遅い。

岸田政調会長が与党内で準備してきた減収世帯への30万円給付案は、連立与党・公明党の強い主張によって国民一人一律10万円給付に変更させられた。4月20日閣議決定されたこの「特別定額給付金」の支給は5月29日~6月5日時点での関東34市区に対する聞き取り調査では、調査1000万世帯に対し、支給済み27万世帯、支給率にして2.7%ほどに留まっているという。(東京新聞 Tokyo Web 2020年6月7日)

事業者向けの「持続化給付金」は、私の周りの聞き込みでは、申請から支給までの期間にかなりバラつきがあった。支給がなくて心配な人は窓口のサービスデザイン推進協議会に電話するも、つながったためしもないようである。さすがにテレビ報道であれだけ騒がれたせいもあるのか?オペレーションの見直しを図ったのだろうか?最近は滞っている人に突然メールがきて振込みされたり、直近の申請分に関しては支給までの期間が短くなっているようだ。ァハハ…(´゚Д゚`;)

雇用対策に関しては、従来の「雇用調整助成金」の制度設計を変更し、事業主が従業員に対して支払う休業手当の助成を申請しやすくした。これが6月12日の第二次補正予算の国会成立を受けて、従業員1人あたりの助成額上限が日額8,330円から15,000円へと大幅増額、助成率も上がり、支給期間も延長されることとなった。さらに休業手当が支払われていない会社の従業員に対しては、「新型コロナ対応休業支援金」が創設され、特例的に雇用保険から直接支給することが可能となった。

またずっと懸案であったテナント事業者の家賃支援に関しても、第二次補正予算に組み込まれ、「家賃支援給付金」として中小企業月額家賃上限50万円、2/3助成、最大6カ月支給という制度内容が確定した。

これらの国家による大規模な支援策を安倍首相は「空前絶後」と自画自賛している。

(経済自粛の入り口で、「(個別の)補償はできない」という、国家運営の責任者としては残念な表明をした当人が、3か月後に大規模な二次補正予算を成立させ、「空前絶後」とか「世界最大級」とか言っている。私としては、その思考回路がよくわからない。民間の経済活動を護ることについて、また国家の財政出動について、どういった見識を持って臨んでいるのか?なぞである。)

地方自治体に関しては、鈴木・北海道知事が国家に先行して非常事態宣言を発出したり、吉村・大阪府知事がコロナ対策の出口戦略を唱え、独自に‘大阪モデル’を導入したりと、実務家型の若い首長の矢継ぎ早な対応策の打ち出しが耳目を集めた。彼ら自治体首長のリーダーシップは、国政の停滞・混乱と好対照をなしていた。

ただ(首都東京を除き)総じて各自治体は独自の財源に乏しく、国家からの交付金をあてにしなければ、実効性のある施策を打ち出しにくいのが現状だろう。

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私は彼ら首長より年寄りだが、フレッシュなアイデアはまだ出せる。

というわけで、今回は有事の際の給付金支給のルールについての提言だ。

新たな感染症の大流行という有事に際し、平時通りの経済活動ができなくなってしまった場合、どんなことが起こるだろうか?

企業体は先々の売上見通しが立ちにくいので、設備投資を手控えるだろうし、毎月の固定費負担となる人件費を削る(解雇、雇い止め、新規採用の中止、給与カットetc.)だろう。減った売上でも会社が存続できるよう、人件費以外にもあらゆる固定経費を見直し、削減を行うだろう。取引金融機関に対しては、借入金の返済猶予や追加の融資を交渉し、仕入先には支払サイトを延ばす交渉をして、会社の手元資金(現金)の確保を図るだろう。

個人の経済生活に関しては、無駄遣い(と感じられる)支出(外食費、旅行やレジャー、ファッションの費用、習い事等の月謝etc.)を控え、人によっては不可避で減ってしまった労働時間を他の副業に充てて収入の減少分を補填したり、専業主婦がパート労働を始めたり、、といった行動をとって、先々に備えた貯蓄(現金)増加に意識を向けることになるだろう。

特に今回の場合、人類が初めて遭遇する新型ウイルス感染症である。
専門家ですらいつ、どのように終息するのか?先々を見通すことができないのだから、企業体も、個人もある程度長期の間、見通しが立たないことを前提とした行動をとらざるをえない。
「ウィズ・コロナ」であり、「ニュー・ノーマル」なのである。

こういった個々の行動はよいも悪いもなく、自らの生き残りのための合理的な判断によるものだ。しかしながら、行動の総和は企業設備投資や個人消費の《急激》かつ《大規模》な抑制であり、経済社会全体でお金の巡りを悪くするものだ。景気後退(Recession)が生じ、これが劇症化すれば恐慌(Depression) ということになるだろう。

国家運営にあたる人間は経済社会全体を鳥瞰して、ボトルネックを特定し、そこを手当てする必要がある。自粛は感染症の拡大防止策になっている一方で、経済活動に冷や水を浴びせる側面もある。

やはりここは緊急事態宣言を発出した責任者当人が「イベント自粛や休業による損害は責任をもって補償します」とはっきり言明すべきである。

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新型コロナウイルス感染症の患者が重篤化するケースでは、呼吸・循環器系が障害され、血中酸素濃度が著しく減少することが報じられている。このため医療現場では人工心肺装置を使って、血液循環を外側からサポートする措置が取られている。

翻って経済社会全体を見た時、今回の一連の自粛要請によって、企業設備投資や個人消費が<急激>かつ<大規模>に落ち込み、恐慌(Depression) の引き金を引いてしまう恐れがある。経済を深刻な病態に陥らせてしまう危険がある。これは絶対に避けなければならない。

そこで、いわば経済社会の<人工心肺装置>として国家が財政出動して、民間部門で弱ってしまったお金の巡りを支えるのである。

ただ、この時の財政出動のポイントはタイミングを外さず、スピーディーに集中して行うことである。

その意味において、今回の国政の停滞・混乱ぶりは明らかであった。

類例のない二回の巨大補正予算を組んで、「空前絶後」とか「世界最大級」とか自慢していたが、頓珍漢としか言いようがない。規模は自慢にはならないのだ。国家予算の原資は、本源的には国家の住民から徴収する税金や社会保険料であり、少なくて済むなら少ないに越したことはないからだ。(註1)
(ただ容体が重篤になることが想定されるから、今回はたくさん確保しておこうという話だ)

もはや「人工心肺装置のために患者が要るのか?」「患者のために人工心肺装置が要るのか?」ということすらわからなくなった如くの空言である。

もとより肝心なのは財政出動のスピードである。

給付金の内容に関して、どのような世帯に、いくら支払うのか?
売上がなくなっても雇用だけは守ろうと踏ん張っている事業者に対して、どんな支援をするのか?
家賃負担が限界に達し、釣り銭の用意もままならない飲食店店主をどうやって助けるのか?

個々の事案に対して、いろいろな視点から、いろいろな意見があるだろう。公平性も考える必要がある。しかし一面で公平なことが、別の面で不公平であることもある。いい支援制度を作ること、相応の予算をつけることは大事だが、それ以上に速く対応することが大事だ。「今日の10万円の給付が明日の20万円の給付よりありがたい」ということが、実際の場面ではあるはずだ。

こう考えた場合、ひとまずはざっくり概算で支払います、、という給付金等の支給ルールの原則を決めてしまってはどうか?

「(感染症、自然災害、内乱、戦争等)有事給付金支払特例法」という法律で、有事の際に生じる緊急の民間のお金の需要に対して、行政サイドが即応できるようにするのだ。

別に特別なことではないだろう。実際に会社では、社員の出張に際し、交通費や宿泊費を事前に概算額で仮払いするのは普通のことだ。家庭内で「今度修学旅行に行くからお小遣いちょうだい」と子供から言われたら、親はふつう妥当と思われる概算額を渡すだろう。企業体や家計が有事に、当事者に責任のない事由で経済逼迫してしまったら、(ひとたび緊急事態宣言が発出されれば、いつでも)国家や自治体に(仮払い申請や小遣いの要求のように手軽に)給付金の概算払いの請求ができて、スムーズな受け取りができる。これが理想ではないか?

テクニカルな面で言うと、あくまでも有事対応(緊急事態宣言下)の給付金支給に目的を限定した上で、個人・法人の金融機関口座とマイナンバーの紐づけを行っていくのがいいと思う。これで行政の手続きコストが一気に下がるのと同時に、スピーディーな給付金支給のインフラが整う。(註2)

国家の監視・介入を危惧する個人・法人はマイナンバー紐づけ登録は行わなくてよい。国民の義務にはしない、あくまでも行政サービスのひとつで、登録は任意である。その代わり「給付金は要りません。自分の身は自分で護ります」で済むのだ。

どの会計部門の予算を充てるかは、あとから決めればよい。(そもそも新型コロナ感染症が今後どんな拡がりを見せるのか?終息に向かうのか?だれにもわからないのだ。)最初からきちんと予算を編成し、きれいな支援メニューを揃えるのは不可能である。むしろ感染蔓延の状況に応じて、軌道修正ができる仕組みが望ましい。

その意味では、第二次補正予算で野党が問題視した10兆円という巨額な予備費を、(逆転の発想で)追加支給の必要が生じた場面で、概算払い請求に機動的に充てていくというのはどうだろうか?

給付金の概算払い申請に際して、事業者に対しては、売上規模や業種に応じて、給付対象となる支出項目についてガイドラインを策定する。直近の決算書等でコロナ禍認定要件を満たした場合に、給付金が充てられる支出項目について、人件費、家賃、水光熱費等々具体的に支出項目ガイドラインをチェックして、これを元に給付金申請額を積算して、申請すればいいだろう。

コロナ禍に乗じて不正受給を狙った申請もあるだろうが、これに対しては、支給後一定期間経過後に、実際の支出経費の領収証や振込明細を提出するのと同時に、概算払い申請額と実際の支払分の差額を精算する手続きを経るため、それほど問題にはならないだろう。(註3)

生活者世帯に対しては、(経済生活の支援は事業者が事業のために行う経費支出とは性質が異なる側面があるため)今回のような「特別定額給付金」を、コロナの状況に応じて(必要と認められれば)、国家がその都度追加支給を決めていくというやり方でいいのでは?と思っている。「個人所得の減少分をどう判定して、補償していくか?」というような議論もあるかと思うが、あまり複雑にしない方がいい気がする。この給付金制度の眼目は、あくまで<有事ベーシックインカム制度>のようなものと考えている。

追加支給に際し、もしも「特別定額給付金」の支給要件や支給額に関し、見直しの議論が出るようであれば、新制度が確定するまで、概算払いルールで急患対応すればよい。行政サイドの不手際や不作為に起因するわが日本国住民の財産の毀損や命の損失はぐっと減ることになるだろう。

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註1:国営企業や公社事業の収益や関税などの例外もある。

註2:早急にインフラ構築を目指すのなら、アカウント連携(紐づけ促進)キャンペーンを行えばよい。この際「早期連携でマイナポイント増量」などと謳ってみるのも一考だ。

註3:この精算チェック業務をたとえば税理士の専管業務としてもよい。1申請当たりの適正料金を決めて、概算払い支出項目に組み込んで精算するようにすれば、事業者、行政、税理士トリプルwinのフローができると思う。

























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